マンション業界を徘徊する「妖怪」の正体

一昨日、とあるデベロッパーさんの「研修会&パーティ」に行ってきました。
「お前がデベロッパーのイベントに行くのか?」
なんて、不思議がられそうですね。
私はマンションデベロッパーと見るや、
相手かまわずケチをつけているように思われていますが、
中には友好関係にある会社もあります。
もっとも、経営者レベルではありませんが。

研修会は、業界でお馴染みの某シンクタンク社長の講演。
非常にレトロなヘアスタイルがとても印象的。
お話の中身もレトロでなければいいのですが・・・
私は寝不足もあって3分の1くらいは舟を漕いでしまいました。

彼の話は語尾がところどころもつれ、
肯定なのか否定なのかややわかり難いのですが、
最後に力強く叫んでいたのは
「これからは、土地神話に乗っかった戸建だ!」

だったと理解しているのですが・・・ちょっと自信ありません(笑)。
その後のパーティで、何人もの方が私に所に来て
「榊さん、いつもブログを読んでいます」
と、名刺交換をしていただきました。ですので・・・
このブログの読者さんで「それは違う」と思われる方は
どうかコメントでお知らせください。

さて、そのパーティの冒頭で挨拶されたのは主催社の社長。
さすがにトークがお上手。
NPO団体の代表など、いろいろな役職を経験されているだけあって
さっきのシンクタンク社長よりも分かりやすい。
そして、最後に
「みなさん、どうか当社に土地情報を持ってきてください」
と、熱烈にアピールしておられました。

へえ・・・そんなに事業用地が欲しいのか・・・

そして昨日。
これも、友好関係にあるとあるデベロッパーの敏腕担当者からいただいたメール。
用件連絡のあとで、こんな一文が
「・・・土地は現在完全に加熱しています。
利益率が低くても入札に応じたり、
市場と乖離した販売価格想定で入札したりと・・」
うーん・・・やっぱり業界はざわついていますね。
こういう現象は、去年あたりから見られたのですが、
今年になってますますひどくなっているようです。

マンションというのは、事業用地を購入してから着工まで早くて1年。
順調に行ったとして、そこから完成・引渡しまでさらに1年。
トントン拍子で事業が進んでも売上が「決算」に入るのは2期先なのです。

マンションデベロッパーで、事業用地を仕入れる部門は
だいたい「事業部」とか「事業企画部」、もしくは「用地」と呼ばれます。
彼らの仕事は、もっぱらマンション用地を買うこと。
「そんなの、簡単でしょ」
と思うのは素人の発想。
土地ってね・・・中々買えないのです。
特にマンション用地は。

この部門に属する人は「年間どれだけの事業用地が買えたか」と
いうことで人事の評価が決まります。
1戸が4000万円で売れるマンション100戸分の土地を買えると
「40億円分の用地を買った」となるわけです。
景気のいいときには、一人で何百億円分もの用地を仕入れる
スター的な社員が現れます。
1戸平均1億円で、1000戸のタワーマンションが建つ用地を仕入れると
「1000億円プレイヤー」なんてことになるのです。
そういう人は「よくやった」「エライ、エライ」と褒められます。

もう、お気づきだと思います。
これは、実におかしな基準です。
こういう「評価」は、結局その事業が成功したかどうかには関係ないのです。
つまり、その土地に建てたマンションがスムーズに売れたのか
ガンガンと値引きしてやっと完売したのか、
という未来の「結果」はその時には問われない・・・問えないのです。

とにかく、「買えればいい」という発想。
もし、土地が買えなければ、売るものがなくなります。
売るものがなければ、売上はもちろん、利益も立ちません。
それでも事務所の家賃を払い、社員の給料を払えば会社は大赤字です。
だから、マンションデベロッパーというのは
「売れない」という状態よりも、
「売るものがなくなる」ということの方が脅威。

「買えないなー」なんていっているうち、
「オッ・・・来年売るものがないじゃないか」
なんてことになるのは、結構よくあること。
焦って探しても、中々いいものなんてすぐには見つかりません。

だから最後には「何でもいいから買って来い!」とか
「多少高くても、俺たちが売ってやる!」という
とても乱暴なマインドで、土地を買いに走るわけです。

都心の土地というのは、個人よりも企業が所有している場合が多いもの。
企業が「社宅」や「工場」などとして持っているけれど
業績がよくないので売ってしまいたい、という場合はどうなるのか?
まず、銀行に相談します。
「どこかに、買ってくれる会社はないかな?」
それを聞いた銀行はどうするのか。
彼らは、その土地をできるだけ高く売らせることで、
1円でも多くのリスク債権を返済してもらいたいもの。

その土地が、もしマンション事業に向いている場合、
銀行は「それじゃあ、入札にしましょう」と提案します。
マンションデベロッパー何社かに声を掛けて、競争入札にするのです。
「都心で駅近」なんていう好条件になると、参加企業は
財閥系4社に専業大手3社、金融系2社の合計9社コンペ・・・みたいな、
それこそオールスターがそろい踏み、ということになります。
ここで、勝ちたい企業は「思い切った高値入札」を仕掛けることに。
「きっとN社は1.2倍くらいで指してくるな」なんて思惑が飛び交います。
どんどんヒートアップすると、予定価格の1.5倍、2倍、3倍・・・

まあ、今はまだ1倍台くらいです。
でも、この前のミニバブルのときは2倍3倍当たり前。
そういうことをやっていたのですから、地価は上がるワケです。

昨年と一昨年は、マンションデベの倒産が打ち続き、
彼らの「事業部(用地仕入れ)」部門のマインドが落ち込みました。
つまり、よほど条件のよい土地でなければ上層部のOKが出ないから
事業部は開店休業のような状態。
どこぞのコケたデベが仕掛けた事業を安値で引き継ぐ
「アウトレット物件」を探し回るのが、
主な仕事のような事業部もありました。

去年あたりは、おいしそうな土地が出ると、
買いに来ていたのは元気のいい2,3社。
せいぜい4,5社が張り合うレベル。
ところが・・・ここに来て、在庫調整も見えて来たようです。
来年、再来年の事業が欲しいマンションデベが
目の色を変えて土地を漁りだしたのです。

「都心もしくは人気沿線の駅近」というのが選択基準。
遠くて大規模、という長谷工型は当面「在庫処理」で手一杯。
不動産屋さんというのは、発想の転換というのが超苦手な人種。
みんないっせいに同じ方向に走り出す傾向が見られます。

日本の不動産というのは、今の経済状況から判断すると
供給を上回る健全な実需なんて、どこを探しても存在しません。
つまり、市場理論的に「上がる理由」は何もないのです。
なのに、目の前のマンション用地だけは上がっている・・・

この現象をどう解せばいいのでしょう?

これは、マンションデベロッパーの「事業部(用地)」が、
自らの「存在理由」という歪な需要でつくり出した
「妖怪」が徘徊しているのです。
過去にも、この「妖怪」はバブルという形で、膨らんでは弾けました。
今また、小ぶりではありますが「妖怪」が
生まれようとしているのかもしれません。


2010/9/15 18:50 Comments (0)

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