日本人というのは、文明国の標準からすると議論がかなり苦手のようです。
非文明国である近隣諸国と比べても、いつも言い負けていると思います。
なぜでしょう?
ひとつには、争いを好まない民族性ですね。
「和をもって尊しと為す」
というのは、聖徳太子の17条憲法にもあります。
もうひとつ言うならば、議論を軽んじる風があります。
戦国から幕末にかけて、日本で最も剽悍なサムライは薩摩にいました。
彼らはいくさに臨むと、実に勇敢に戦います。
ところが、言葉の戦いである議論が嫌いです。
というよりも、多弁であることを蔑みます。
「議を言うな」
というのは、今の鹿児島県でもよく使う慣用句だそうです。
これを分かりやすく訳せば
「ツベコベ抜かすな」とか「能書き垂れてんじゃねえ」
といったニュアンスでしょうか。
議論になったとき、心の中でそうつぶやいている方は
結構多いのではないでしょうか?
ヨーロッパでは、これとはまったく逆の価値観が主流。
彼らは、まず言葉の戦いを重視します。
自分たちの考えを様々に弁じたてて、
最終的には相手を言い負かしたり、
聴衆を納得させたりすることを良しとします。
「アリストテレスの雄弁術」はもちろん、
相手をうまく丸め込む「ソフィストの詭弁術」なるものも
欧米のインテリゲンチャーにとっては基礎教養だそうです。
ところが、日本人でそんなものを学んだ人はほとんどいないはず。
実は、そういったことを教えることができる人材も少ないと思います。
きっと国民性が合っていないのでしょう。
だから、大半の人々が低レベルの政治屋どもの発する
インチキな言動にコロっと騙されるのです。
お時間のある方は、これを見てください。
www.news24.jp/articles/2010/12/09/04172093.html #
何度かここで取り上げている蓮舫という
水着モデル出身の参議院議員(東京都選出)が、
実に初歩的な詭弁とイメージ主導の弁舌で、
杉並区の中学生を誑かしている映像をご覧いただけます。
チマチマと重箱の隅をつついても長くなるだけなので、
ポイントだけを書かせていただきましょう。
議題は「子ども手当て」についてです。
「反対意見」を発表した和田中学校の生徒たちは
実によく調べて主張し、疑問を投げかけています。
1 一律の支給はおかしい(所得制限などが必要では?)
2 子どもにとって実感がない
3 13000円に5000円足すとか7000円足すとか、ブレている
4 ただ税金を返しているだけじゃないか
5 そんなお金があったら、保育園補助にまわすべき
6 パチンコに使っている人もいるんじゃないか
こういった反対意見に対して、蓮舫氏はまず
「自分の家が子ども手当てを何に使っているか知っていますか?」
と問いかけ、何人かの生徒にマイクを向けます。
「知らない」と答えた生徒に
「あなたはどちらに投票しましたか?」
と、問いかけます。
「反対です」と答えると、
まるで「知らないのに反対しているの?」といいたそうな素振り。
自分の家の収入の一部が何に使われているのか、
普通の中学生が知っていようはずがないし、
また知るべきでもないと私は思います。
こういうツッコミはかなり卑怯ですね。
次に、彼女は「なぜ所得制限を設けないか」に対して
以下のような趣旨のことを述べています。
同じ年収400万円でも、祖父祖母がいて資産のある家庭と
貧乏な母子家庭を見分ける方法がないから、
隅々まで行き渡るように全員に支給した。
よくもまあ、純真な中学生を相手にこんな大嘘がつけたもの。
そんなのを見分ける方法はいくらでもあります。
百歩譲って「見分けられない」としたところで、
年収3000万円や1億円を超える方々や果ては外国人まで
現金を支給していることの言い訳にはなりません。
「パチンコ代に使っていないのか」という質問に対して、
厚生労働省の調査ではそういう結果は出ていないから
「いないと思う」とお答えになっています。
これには呆れました。
アメリカなら高校生でも一瞬で看破できる「詭弁」です。
「詭弁(もっともらしい嘘)」には、
論理学上はっきりとした分類があります。
ここで元水着モデルの参議院議員が弄した詭弁は
「未知論証(ad ignorantiam)」と分類されるものです。
ごく簡単に説明すると
1 子ども手当ては、子育てに使う目的で支給した
2 それをパチンコに使っているという調査結果は出ていない
3 だからパチンコに使われているはずがない
という論理です。
少し考えれば、誰もがおかしいと気づきます。
でも、和田中学校の純真な生徒たちの何人かは騙されました。
気が付いていた聡明な男子生徒もいました。
しかし、この手の初歩的な詭弁がまかり通っているのが
残念ながら今の日本の民主主義なのです。
その他、蓮舫氏は
3 13000円に5000円足すとか7000円足すとか、ブレている
4 ただ税金を返しているだけじゃないか
5 そんなお金があったら、保育園補助にまわすべき
ということに関しては、
あの映像で見る限りほぼ何も答えていません。
それどころか、まったく別の事柄である「事業仕分」の話と
「税金の使われ方はよく家庭で話し合え」みたいな議論のすり替えで
全体をあやふやに誤魔化しています。
私はあのがんばった和田中学校の生徒たちに向かって
「お前ら、不甲斐ない」なんて、
これっぽちだっていうつもりはありません。
平均的な大人よりか、はるかによく考えていたと思います。
ただ、ああいった討議の技法について、
キチンとした訓練を受けていないだけです。
斯く言う私・・・実はあまり議論が好きではありません。
世の中、たいていの問題はYESかNOだと割り切る方で、
議論なんて何の生産性もない「徒労」だと思っています。
どちらかと言うと、薩摩隼人の「議を言うな」に近いですね。
といっても議論の場に出て自分が「弱い」と思ったことは一度もありません。
どちらかとえば「三寸の舌をふるう」ことを得意にしてきたタイプ。
自分ではめったに使いませんが、「詭弁術」も一通り心得ています。
物分りの悪い不動産屋を説き伏せるときに便利でしたから(笑)。
だからこそ、あの映像のような低レベルの詭弁術で
国民を騙している政治屋を見ると、無性に腹が立ちます。
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