都心のコンパクト、「買う」「借りる」どっちが得か? (13)

不動産の価格を査定するのに「収益還元法」というのがあります。
宅地建物取引主任者の資格試験で覚えなければいけないので、
たいていの不動産屋さんはご存じです。
「その不動産から得られる年間収益から逆算する」というもの。

しかし、日本の場合、これは長らく「机上の空論」でしかありませんでした。
なぜなら、収益還元法から考えると説明できないほど
不動産価格が高かったからです。
それが、にわかに注目されたのはミニバブル期。
どどっと外国の投機マネーがやってきて、
日本の不動産を買いまくったからです。

その頃だって今だって、都心の事業用ビルやマンションの
収益率は大して変わりません。
すごく乱暴に言ってしまえば「5%」が基準で、
おいしいものは7%ちょい、一等地のレア物件で3%くらい。
でも、投機マネーはこれをたちまち10%以上の収益物件に
変身させてしまう魔法をもっていたのです。

魔法の中身は本題ではないけれど、ちょっとだけ説明します。
それは、「低利の借入」です。
例えば収益率が5%ある10億円のビルを
自己資金1億円、借入9億円(年利1.5%)で購入します。
年間の支払利息は1350万円。得られる収益は5000万円。
差引3650万円の「実収入」になります。
物件購入に持ち出した資金は1億円なので年利36.5%の収益。
魔法みたいでしょ(笑)。

「これはいい」ということで日本人も真似しました。
ダヴィンチとかパシフィックとかリサとか、
和製ファンドが雨後筍のごとく出てきて・・・みんな倒産しましたが。
所詮、ビジネススキームに無理があったのでしょう。
「魔法」はやはり「魔法」でしかなかったのです。

さて、魔法の元の基になった収益還元法ですが、
最近はこれが別の意味で「使える」ようになってきました。
どういうことかというと

●都心の新築・中古マンションが値下がりして「市場価格」に
●郊外の賃貸住宅の賃料も値下がり
●郊外、近郊の中古マンション価格は低位安定

といった現象から、都心から近郊、郊外にかけて
マンションに投資した場合の収益率の差が縮小気味なのです。
つまり首都圏では広く「収益還元法的」な不動産価格と
賃料相場が出現してきた、ということなのです。

例えば、昔は港区の物件なら2-3%が当たり前。
収益というよりも値上がり益や資産の安定性狙い。
郊外の千葉県市原市あたりなら15%くらいの高収益率でも当然。
こちらは投下資金の短期回収&収益狙い。

ところが最近、港区のマンション価格は下落して
新築マンションなら4%、中古なら5-6%の収益が見込めます。
逆に市原では賃料と入居率の低下で10%がせいぜい。
中間の船橋あたりでも表面10%実質7-8%くらいが目安でしょうか。

なぜそうなったかというと、港区はミニバブルの崩壊で
単純に普通の「市場価格」状態になっただけ。
船橋や市原では賃貸需要が縮小して賃料相場が下がったということ。
もう一段市場化が進めば、今度は物件の価格自体が下落するはずです。
(物件価格が下落することで収益率はアップします)
つまり、賃貸需要の主体である若年層の人口減少が
ここにも確実に表れているといえます。

さて、この現象を逆から考えてみましょう。

私はこの半年ほど、マンションレポートを作成するために
文京区と港区で販売中のマンションをくまなく見て回りました。
その時にちょっとびっくりしたのは「コンパクトマンション」です。
物件数にすれば6-7割がそうなるのではないでしょうか。

コンパクトマンションというのは一人住まい、二人住まい用の
30-60㎡台の1LDKと2LDKが主体です。
昔は「狭小型」と呼ばれた、どちらかと言えばマイナーな存在。
都心のどうしようもない狭い敷地は「ワンルーム向け」。
それよりちょっとマシだけど、ファミリーには向かないところに
「仕方なく」作っていたマンションのスタイルでした。

そして、需要層の主体はシングル女性。
このニッチな市場を狙った「小島ひろ美」なる天才不動産屋が
「女性のための・・・研究会」などという組織を作り、
紹介女性が物件を買うとマンションデベから1%の手数料をバックさせる、
という素晴らしくも怪しいビジネスを大成功させています。

ところが、コンパクトマンションの需要層は
今やシングル女性だけではなくなりました。
多くのチョンガー男性たちも、このカテゴリーのマンションを買っています。
私の想像では、シングル女性の割合は半分。
チョンガー男性3割。残り2割はその他もろもろ。

そして、今や都心で供給されるマンションの主役自体が
「コンパクトマンション」になっています。
なぜそうなったかというと・・・これは単なる不動産屋の都合、
といってしまっていい部分がかなり大きいと思います。

都心ではファミリー向けの大きな用地が買いにくい。
(そんな用地はもっと儲かるタワーにしてしまう)
しかし、土地代が下がったので狭い土地なら買える。
コンパクトマンションは販売経費が少ない割に儲かる。
他社の成功事例がまわりにあった。

みたいなことが複合した結果だと想像します。
そして、ミニバブル期に比べれば買う側も「買いやすく」なりました。
不思議なことに、文京区の地味なエリアでも
港区の派手な場所でも、グロス価格にそれほど差はありません。
なぜなら、買う側の「資金力」を考えれば
あまり高くはできない、というマーケティングの事情があるからです。

だったら、あんまり地味な所ではなく「楽しい場所」で買おうよ、
というのが我が研究所のコンパクト担当研究員・神戸有里氏の考え。
もちろん、それには私も大賛成しています。

ただ、このコンパクトマンションを買うのが「損か得か」という
もっとも重要な問題は真剣に検討しておくべきでしょう。

ちょっと前までは、六本木あたりに住むのなら
ベラボーなお金を出して「買う」よりも「借りた」ほうがはるかに得。
逆に、地方に住むのなら高い家賃を払うよりも買ってしまった方がいい。
つまり、都心になればなるほど賃貸、都心から離れるほど購入が得・・・
というのが「賃貸VS.購入」のセオリーでした。

ところが最近、都心、郊外ともにマンション自体の価格と共に
賃料も目立って下落してきました。
私のざっくりとした感覚では、都心の港区でも文京区でも、
あるいは江東区や北区のような近郊エリアでも、
新築マンションの価格の5%くらいが年間賃料になっています。
前述した収益還元法が「使える」ようになってきたのです。

でも、この5%の場合は賃貸と購入のどちらが得なのか?
4000万円くらいのコンパクトマンションを
買った場合(全額ローン)と借りて住んだ場合をシュミレーションしてみました。
A 買った場合:返済額+管理費と修繕積立金の総支払額。
B 借りた場合:賃料と管理費などの総額。
年利2.85%がずっと続いた(まずありえないけど)とすると、
BがAを超える、つまり買った方が得になるのは33年目あたりです。

33年目・・・うーん、と唸ってしまいますね。
もし、賃料がマンション価格の6%になると、これが25年になります。
さらに7%になると21年目になります。
どうやら、今の金利水準で考えると、このあたりが目安ではないでしょうか。
つまり、年間賃料が物件価格の7%を超えるのなら
「買った方が得」ということになりそうです。
そうなるには、物件価格が3割近く下がらなければなりません。
まあ、5年後10年後なら分かりませんが、ここ1,2年ではなさそうです。

結局、都心でコンパクトを「買う」というのは、
そのマンションの資産価値が安定していない限り、
「かなりリスキーな選択」という結論になってしまいました。

マンションデベは自分たちが儲けるために
ジャンジャカとコンパクトマンションを都心に供給していますが、
その「選び方」はくれぐれも慎重になさってください。

以上、公開講座第13回「コンパクトマンションの時代を読む」でした。

参考レポート

女性のためのマンションレポート首都圏シングル編

「港区・総集編」全38物件、そのすべてを検証する

「文京区・総集編」全20物件を分析


2011/5/4 21:07 Comments (0)

コメントはまだありません

No comments yet.

RSS feed for comments on this post. TrackBack URL


Leave a comment

※こちらへ書き込みいただいたコメントは、承認後全て表示されます。
マンション購入に関する個別相談等こちらへ表示させたくない場合は、
専用フォームからお願いいたします。