路線価よりも「不都合な真実」がある!

昨日は路線価調整率の発表があって、業界にやや衝撃が走りました。
液状化が起きた浦安市の一部が4割の減価です。
それで、今日はメディアの一部が様々に取り上げているみたいです。
実際に浦安市湾岸部で取引される不動産の価格が、
震災前に比べて4割下がっていれば大変なのですが・・・・

路線価というのは、税務署が相続税の計算に使う基準です。
実際の取引価格と100%連動しているワケではありません。
不動産の取引というのは、新築分譲マンションの販売でもない限り
「相対取引」といって、売り買い双方が合意すれいくらでもいいのです。
例えば、震災前に1億円だった住宅が、
震災後に6000万円で取引されている場合だってあり得ます。
それどころか、3000万円でも2000万円でも、
双方がウンといえば取引成立。

だったら、親が持っている家を、子どもに安く売ることは可能か?
もちろん、取引は成立します。
ただし、市場価格よりも不自然に安く子供に譲った場合、
税務署から贈与と認定されて贈与税が発生する可能性があります。
でも、それだけのこと。取引自体は有効です。

さて、問題の路線価ですが、浦安市は4割減で済みました。
でも、福島県の原発付近は、なんと0評価。
価値がないと見なされたワケです。
そりゃあ、人間が立ち入れないほど危険とされているワケですから
そこに資産価値があろうはずがありません。
放射能被ばくの実験場にするのなら、多少使い道があるでしょうが。

そして、メディアに出ている各コメンテーターの発言は多分、
「路線価は相続税を算定するもので、実際の市場価格とは違います。今回発表された調整率は、被災者を救済する意味合いもあるので、そこにも注目してください」
みたいなのが多くなると予想しています。
つまり「実際に価格が下がっているのではない」
というイメージを無理に作り出そうとしているのです。
なぜでしょう?
まずひとつの理由。
ほとんどの住宅ジャーナリストは、不動産屋さんから
何らかのお金をもらう仕事が多いので、
あの業界にとってマイナスになるような発言はしづらいのです。

もうひとつの理由は、メディア関係者の心理状態。
彼らの中には、浦安や湾岸エリアのタワーマンションに
住んでいる方がかなりいるようです。
そういう方々は、自分の所有不動産の資産価値が下がることを嫌います。
だから、「価格は下がっていない」「湾岸人気復活」という
業者側からバイアスのかかった情報発信があると、すぐに飛びつきます。

では、浦安湾岸部の不動産価格は本当にそれほど下がっていないのでしょうか?
実は、今のところ確かなデータ的な裏付けはありません。
前述のように、不動産は相対取引です。
実際の取引額をどこかの役所に届け出る義務は、ほぼありません。
だから、現実の取引価格は分からないのです。

でも、浦安の地元不動産業者さんは知っているはず。
ただし、たとえ実勢価格が大幅に下落していても、
メディアの取材に対して「ええ、もう暴落状態です」なんて、
口が裂けてもいいませんよ、きっと。
だって、そんな業者に売却の仲介を依頼する売主がいなくなりますから。

ただ、こういうことはそのうち自然に分かります。
あと2,3年もたったら
「震災前は1億だったけど、今は6千万でもキツイかな」
といった内容の発言も、それほど奇異には聞こえなくなるでしょう。

もうひとつ、「湾岸人気復活」なんていうことを最近よく聞きます。
これも、マンションデベ側にバイアスがかかった情報操作です。
確かに、ド派手な広告をしている湾岸の某タワーマンションが
モデルルームへの大量集客に成功して話題になっています。
しかし、その数自体は業界の一般基準から言えばちょっと少な目。
さらに、モデルルームにたくさん人が来たから、
そのマンションがスムーズに売れるか、
というと必ずしもそうではないのです。

何度も書きますが、新浦安の「凛区」という
液状化被害の大きかったマンションは、
推定で累計数万人の来場者数がありながら、
733戸を完売させるのに何年もかかっていました。
今回、湾岸で話題になっている某タワーマンションは、戸数が600戸。
それで、モデルルームへの集客は現状で2000組くらいだと思います。
業界内での歩留まりの目安は10%。
200組が申し込んだとしても、まだ400戸残ります。
そして、ああいった広告の大量投下で集まったお客さんの
歩留まり率は、総じて低いのが業界の常識です。

しかしながら、こういう大型物件の場合は最初のキャンペーンで
半分くらい決めておかないと、残りを売り切るのがしんどくなるのも現実。
渡辺謙がド派手に登場していた前述の「凛区」プラウド新浦安は、
販売の中・終盤戦にかけて凄まじい値引きを行っていました。
初期の広告に浮かれて定価で契約された方が、本当に気の毒なくらい。

さらに湾岸エリアでは2か月ほど前から、
あの石川遼君をイメージキャラクターにした
三菱地所レジデンスの「ザ・パークハウス晴海タワーズ」も登場。
こちらも負けずに広告の大量投下を行っています。

他にも、三井不動産レジデンシャルの
「パークタワー東雲」に「パークタワー豊洲」。
住友不動産は相変わらず「シティタワーズ豊洲」2物件を
ミニバブル価格そのままで販売継続中。
オダギリジョーが出ていた「ブリリア有明スカイタワー」も
事業主(東京建物)発表によれば夏以降は「販売は回復」しているとか。
本当に毎月50戸ほど契約できていれば、目出度く「中古」となる
来年の3月までに完売できてもおかしくないはずですが・・・

このように、湾岸には大手マンションデベがそろい踏みで、
これからもタワーマンションを大量供給する予定なのです。
だから、震災の影響とはいえ「湾岸離れ」「タワー敬遠」が
いつまでも続いてもらっては困ります。
どこかで「人気回復」しないと、それこそお先真っ暗。
そういったお家の事情があるので、ちょっとした現象を捉えて、
しきりと「湾岸人気回復」というメディアリリースを行うワケです。
つまりは、デベ各社の「希望的観測」もしくは「願望」が
濃厚に混じった「湾岸人気回復」なのです。
メディアもそれを分かってか、分からないでか、
そのままホイホイと流しているのが現状です。

本当に湾岸エリアの人気が回復するには、
液状化や津波の影響を盛り込んだ低価格路線を打ち出すべきです。
すなわち、
「ひょっとしたら地震で液状化するかもしれないけれど、価格は千葉県のバス便物件並みに安いよ」みたいな・・・
まあ、そこまで自然に価格が下がるには、あと何年もかかりそうです。
ただ、大きな地震が東京を襲えば、即座に市場価格は暴落します。

実は、湾岸タワーマンションのリスクは、液状化だけではありません。
一番困るのは、電気が来ない時。
「非常用の発電装置があるので、停電後も24時間はエレベーターを動かせます」というマンションが多いようですが、
阪神大震災の時には、7日間ほど電気が止まりました。
あとの6日間はどうしろというのでしょう?
電気が来ないと、水道も使えなくなります。
津波を被る可能性だってあります。
福島の原発みたいに、津波で発電機が故障したらどうなるのでしょう?
その最初の24時間だってエレベーターが動かなくなります。
だいたい、大きな地震によってエレベーターが自動停止した場合、
安全点検が終わるまでは動かせないのです。
その間、自家発電機があってもダメ。

そういったリスクを、販売サイドは何も説明しないでしょう。
「免震構造や地震対応設備があるから、すべてが解決。大きな地震にも安心していられる」なんてことはありえません。
リスクはリスクであり、厳然と存在します。
湾岸であることによるリスクと
タワーマンションであることのリスク。
そして、地震後は資産価値が暴落するリスク。
これらは、基本的には何も変わっていません。

こういった当たり前のことに、多くのメディアはスルーですね。
不動産系のジャーナリストも、大きな声では言いません。
これは、私から眺めているとかなり不思議な現象。
「不都合な真実」は、あえて見ないようにしているのでしょうか?

さて、レポートの更新情報です。
話題の湾岸エリアのレポートをこれからドシドシと
最新情報に更新していきます。
まずは、今もっともホットなエリア「東雲」です。

プラウド、パークタワーが一騎打ち?
「東雲・辰巳」エリア
波乱のマンション市場を分析
価格 3790

このエリアはすごいことになっています。
坪単価200万円未満の住戸も出てくる中、
野村と三井のタワーがガチンコ対決になりそうです。
橋の向こうの豊洲でミニバブル価格に固執する
住友のシティタワーズがすっかり取り残されそうです。

さて、みなさんのためになるのなら、少々過激なことでも
バシバシとお話しする私のセミナーも参加受付中です。
無料ですので、19日土曜はぜひ新宿にお越しください。

榊淳司の無料セミナー
「買っていいマンション、買ってはいけないマンション」
詳しくはこちらから


2011/11/2 18:00 Comments (1)

1件のコメント

はじめまして。

仲介業者に勤めるものです。

「ザ・パークハウス晴海タワーズ」…室内ゴルフ練習場があるらしいよ!

と社内で冗談、言ったら、信じちゃった人がいました…

どんな共有施設があるのか、私も知りませんが

湾岸エリアに、大量供給されるので、ありきたり没個性より

「ゴルフ練習場」くらいの思い切った策があった方がいいかもしれま

せんね。

2011/11/02 22:11 | by N

RSS feed for comments on this post. TrackBack URL


Leave a comment

※こちらへ書き込みいただいたコメントは、承認後全て表示されます。
マンション購入に関する個別相談等こちらへ表示させたくない場合は、
専用フォームからお願いいたします。