世界同時インフレの足音と日本

株価というのは景気の先行指標としては、
かなり正確な役割を果たしていると私は思っています。
本日ただ今(4月9日10時40分)、立会時間中で9500円台。
ちょっと前の10200円を超えていた頃が嘘みたいです。
原因はあれこれ言われていますが、やはり金融緩和期待の後退でしょうね。
米欧中に続いて日本もか・・・と一時は期待したのですが、
10兆円と1%であとは尻切れトンボ。
アメリカのQE3への期待もしぼみ、
一方の欧州ではポルトガル、スペイン危機が浮上。
ギリシャだって、応急措置を済ましただけで
根本的な解決には程遠い状態ですからね。
まあ、5-6年前の世界的バブルの再現みたいになるのも
後遺症が心配だから、この程度でも良しとは思うのですが・・・

私という人間は、どうもミクロの視点が苦手です。
つまり「2,3か月先」や「半年先」よりも「10年先、20年先」あるいは
「50年先、100年先」のことを考える方が性に合っています。
最初に入った大学で一時期、
狂ったように現代史を齧ったからかもしれません。

この50-100年の視点で見ると、今の世界経済は
「管理通貨制度の危機」といえる状況ではないかと思っています。
管理通貨制度というのを例の如くカンタンに言ってしまえば、
「人間が恣意的に『貨幣』なるものを創りだし、良心的に管理する」制度。
実はその歴史は意外と浅くて、世界の通貨体制の主流になったのは
1971年8月15日のニクソンショック以来と考えていいでしょう。
ここで、アメリカは金1オンス=35ドルという金本位制を放棄。
それまでドルは金本位制、各国通貨は「ドル本位制」のような状態で
1ドル=360円というように外国為替が固定されていたのです。

そのあと、各国ともにほぼ完全な「管理通貨制度」となりました。
つまり、貨幣の価値は各国の中央銀行が保証しているだけの
至極脆弱なものへとその本質が変わったのです。
これって、世界経済史上で恐ろしくも革命的な変化です。
例えば、江戸時代の日本の貨幣は「大判小判」だったでしょ。
あれって、小判そのものに金が含まれていました。
だから、その価値について江戸の人々は疑いを持ちません。
ところが、今は1万円札が紙でできています。
「この紙切れに1万円の価値がある」とみんなが信じているから
いろいろなものと交換してもらえるのです。
その価値を保証しているのは、他ならぬ日本銀行です。
あの紙切れに1万円の価値がないとすると
メモには使えないし、トイレットペーパーの代わりにすらなりません。

1971年のニクソンショック以前、1万円は27.7ドルと交換できました。
その27.7ドルで金を0.77オンス買えることを
アメリカの連邦政府が保証していたのです。
これが、いってみれば「ドル本位制」。
今は、1万円で金を買おうとすると田中貴金属店に行けばいいだけ。
今の相場ですと2.2グラム(0.077オンス)ほど買えるはずです。
でも、明日も明後日も、1年後、3年後、5年後も
同じだけ買えるとは限りません。
その間、1万円の価値が落ちて1グラムも買えなくなるかもしれないし、
逆に3グラム以上買えるようになるかもしれません。

今、金1オンスは1630ドルあたり。
1971年以前では前述のように35ドルだったので、
ドルの価値は46分の1に落ちたことになります。(円は10分の1)
なぜ落ちたかというと、アメリカの連邦準備銀行がせっせと
紙幣印刷機を回してドルを増やし続けたからです。
こうやって人間が恣意的に通貨を増やすことを、
今の言葉では「金融緩和」といいます。

「それじゃあ、お金が足りなくなったら増やせばいいじゃん」
と、誰もが考えますよね。
そして、世界各国は実際にそのようにしています。
またそれは、100%いけないことではありません。
経済の規模に合わせて、通貨(お金)の流通量も
増やさなければいけませんから。
でも、経済が発展する以上にお金を増やしてしまったらどうなるのか?
お金の価値が落ちて、インフレーションになります。
アメリカのドルがこの40年間で46分の1に落ちたように。

実は、それも悪いことではないのです。
この40年間でアメリカは貧しくなりましたか?
極端に豊かにはならなかったでしょうが、貧しくもなっていません。
いまだに世界で一番富める国ではないでしょうか。

ところが、どうやらご都合主義で「お金を増やせる」この
「管理通貨制度」というシステムが、ここにきて危うくなった・・・
という風に私には思えてしまいます。
というのは、リーマンショック以降世界の経済が変調をきたし、
各国は争う様に「お金を増やして」その場を凌ごうとしたのです。
ドルもユーロも人民元も、お隣の韓国ウォンでさえ
じゃんじゃか金融緩和をして、まるで世界通貨安競争の様相。
ただひとり、日本だけはそこに参入せずクソまじめに通貨発行量を
日本銀行が健全と思えるレベルに抑えてきたのです。
当然、円高になります。
これもまあ、日本経済のマクロ的には悪くはないと思います。

ただし、お金の流通量が増えないことで「天下のまわりもの」が
庶民の懐まで回ってこないので、モノが売れなくなっています。
それが、1990年のバブル崩壊以来続いている
「失われた20年」の根本的な原因ではないかと私は考えています。

さて、このご都合主義による通貨増量(金融緩和)は、
今後も日本以外の国で続けられそうな気配です。
これは覚せい剤を打って元気になるようなもの。
一度始めたら中毒みたいになって止められないのではないか、
と私には思えるのです。
したがって、ECB(欧州中央銀行)やFRB(連邦準備銀行)はもちろん、
支那や韓国も今後とも断続的に通貨を増やし続けるはずです。
日本は多分やらないでしょうが。
そうなると、どうなるのか・・・・

これは私なんぞにはよく分かりませんが、
「世界同時インフレ」になるのではないかと思います。
現に、原油を始めとした資源価格はずっと上昇基調です。
多少のブレはありますが、金の価格も同じ。
今後も、今以上に上がり続けるのではないでしょうか。
年に5%くらいのインフレで収まっていれば、まだ健全。
でも10%以上が当たり前になれば、もう「混乱」といいでしょう。
そういった状態が、数年先に迫っているように思えるのです。
つまり、ドルやユーロに対する一般社会の信認が揺らぎだす状態。
同時に、FRBやECBの政策に対する不信の増大。
人々は、争って金を買いに走るかもしれません。
英国ポンドやスイスフラン、日本円はますます高くなるでしょう。

そして、そういった混乱がこの「管理通貨制度」というシステムの
根本的な設計変更を促すキッカケになるように思えます。
恣意的な通貨増量(金融緩和)に厳しい規制を課す方向へ、
システムを大幅に変革するのです。
それは、おそらく世界経済の混乱を経た
5-10年先のことではないかと思います。
昔のように「金本位制」には戻れませんが、
今の様にご都合主義で通貨を増やす制度は、すでに限界が見えています。

で・・・・日本はどうすればよいのでしょう?
私はFRBやECBのようにご都合主義で通貨を増やすことには反対。
しかし、今のように円のボリュームを硬直させていては、
いつまでたっても不況から脱出できないと思います。
したがって、FRBが行う3分の1か4分の1程度には
通貨を増やして(金融緩和)、円が独歩高になるのを抑制すべきです。
先日、日銀から10兆円の金融緩和と1%のインフレ目標が発表され、
日経平均は軽々と1万円を超えました。
しかし今、それが「猫だまし」みたいなものだとバレたので
株価は「元の木阿弥」に戻りつつあります。

世界同時インフレに巻き込まれる必要は何もありませんが、
「金は天下のまわりもの」と時々思える様にはなりたいもの。
管理通貨制度における通貨とは、所詮幻想のようなモノ。
デタラメに増やすのもよくありませんが、
カンフル注射を打ちこむ程度には、システムを活用すべきです。


2012/4/9 12:00 Comments (0)

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