ある被爆者との出会いと原発事故の数少ない利得

先月関西方面へ出張した際、たまたま新幹線で隣り合わせた
老紳士と、名古屋まで楽しく歓談させていただきました。
そのお方、年齢は私よりちょうど20歳上。
話題が生まれた街の話になると、驚くべきことをおっしゃいました。
「私はね、広島なのですよ。原爆が落ちた時に爆心地から1.3kmのところにいて被曝しました。3歳半でした」
ヒェー、と思って詳しくお聞きすることにしました。
私は、原爆の被爆者から親しくお話を聞いたことがなかったし、
こんなチャンスはめったにないと思ったからです。

その時、彼のご母堂は食事の後の洗い物を台所でなさっていたそうです。
ピカっと光った瞬間、お母上は顔を伏せました。
それが彼女の命を救ったそうです。
頭には大やけどをされたようですが。

爆風というか突風というか、大きな力により、
一瞬のうちに住んでいた家がなぎ倒されました。
彼と妹、お母上はとうぜん倒れた家の下敷き。
ただ、木造の平屋だったそうで、何とか全員助かったそうです。
当然、彼と妹はお母上に助け出されました。

「3歳半なのに、覚えているのですか?」
「はい。そのことだけは覚えています。よほど強烈な体験だったのでしょうね」

それからお母上は小さな妹を抱き、彼の手を引いて
2kmほど離れた実家へ逃げたそうです。
そこは小高い丘の上にあり、階段を昇って行くうちに
ご近所な方が助けに来てくれたといいます。

「お怪我はなさっていなかったのですか?」
「ちいさなケガはたくさんあったようです。私は頭にガラスの破片がいくつも刺さっていたそうです。母は看護婦でしたから緊急用の救護セットをもっていたので、それで破片をひとつひとつ取ってもらうのが痛かったことを覚えています」

そのように、幸い彼の家族は誰も死なずに済みました。
出征中のお父上も、戦後無事に帰ってこられたそうです。
それで、彼は被爆者として今まで生きて来られました。
ご両親はすでに亡くなったそうです。

「あのう・・・何か症状はおありですか?」
おずおずと私がお尋ねすると、彼は晴れやかな顔でおっしゃいました。
「それがね、今に至るも何もないのですよ」
お母上も、妹君も、原爆が原因と思われる症状は
何も出ていないのだそうです。
「それはよかったですねえ」
「はい。それでもね、被爆者手帳は持っています」

聞くと、被爆者手帳というのはとても「ありがたい」のだそうです。
彼の様にも何の症状も出ない人にも、
●毎月無条件に1万6千円余が支給される
●都道府県指定の医療機関へ行けば、いかなる医療費もタダ
●定期的な健康診断もタダ
その他にもいろいろあります。
症状が出ている人には、もっと厚い手当があるようです。

「いやあ、年金の他に16000円でると助かりますよ」
「そりゃあいいですね」

とはいったものの、税金ですからちょっと複雑。
しかしその老紳士、お金に不自由している様子はまったく感じさせません。
それどころか、物腰や言葉遣いに気品が漂っています。

「失礼ですが、お仕事は何をされていますか?」
と私にお尋ねになったので、お答えしました。
「住宅のジャーナリストをしております」
「ほう、そうですか。実は私はね・・・」

この方、あとで名刺を交換させていただいて分かったのですが、
東日本の某政令指定都市で14教室を展開する英会話学校の経営者。
カナダのバンクーバーにマンションを2室お持ちで、
その取得にまつわる契約のお話や、賃貸運営のお話、
英語力向上の方法などを楽しくお聞かせいただけました。
余計な話ですが、話題に出た日本人のよく間違える英語の解釈を、
私はすべてクリアーしていたので、
最後に「あなたはよくご存じでいらっしゃる」と、
お褒めの言葉までいただいて嬉しい思いをしました。

この項を書くにあたって、厚生労働省のサイトにある
「被爆者対策」のページを覗いて見ました。
いやはや、実に手厚い対策が取られているのですね。
もちろん、原爆症に苦しんでおられる方は
「今のままでは足りない」とお感じなっていることでしょう。
でも、素人の私からすると、万事行き届かない日本政府が
「ここまでキッチリやっとるのか」と思います。

何度かここで書いている通り、
大東亜戦争中にアメリカが日本に行った
原爆はもちろん通常兵器による無差別爆撃は、
明解な国際法違反であり、立派な戦争犯罪なのです。
したがって、その被害者に対する補償は本来、
犯罪者側であるアメリカが行うべきことです。

私はいまさらそれをアメリカに求めよ、とはいいません。
そういった権利は、サンフランシスコ平和条約を締結した時に
放棄しているワケですから、今更それを言い出すと
慰安婦問題でゴネ倒している韓国と同じレベルに落ちます。
ただ、「戦争犯罪であった」という事実は、
日本人の子々孫々にキチンと伝えていくべきだと思います。
また、時々にアメリカに対してもチクチクと
釘を刺しておいた方がいいでしょう。
でないと、連中はいつまでもそれを自覚しません。

さて、広島・長崎での被爆者に対する政府の対策は
私から見るとあるレベルに「行き届いた」状態になっていますが、
今回の福島第一原発の事故ではどうでしょうか。
まず、第一義的には事故を起こした東京電力が
加害者として補償を負担しなくてはならないでしょう。
現にその一部は行われているようです。

しかし、そもそも原子力発電の導入と拡大は国策でした。
電力会社は当初、高度な技術が必要で事故の可能性もある
原子力発電を嫌がっていたと言われています。
それを押し付けるようにしてやらせて、拡大させたのは政府。
したがって、私は日本国政府が東京電力と
連帯して責任を負うべきと考えます。

幸い、今回の原発事故は直接には一人の死者を出しておらず、
未だに明解なカタチでの健康被害も報告されていないようです。
しかし、だからといって被爆者の健康に対して
責任を薄めるようなことがあってはなりません。

これは日本国にとって大きな厄災ではありますが、
逆の意味において大いなるチャンスなのです。
なぜなら、放射線被曝に対する医療データが蓄積でき、
その療法についても進化発展させられるからです。
多分、20年後には日本はその分野で世界一のノウハウを
誇ることになるだろうと私は予測します。
これは、原発事故を起こしたことで得られる、
僅少ではあるけれど得がたい利得なのです。

こういった科学面でのメリットを政治が歪めてはなりません。
故意に放射線の影響を薄く見せたり、大げさに解釈することは
日本の原子力技術や医療水準の向上にとって
「百害あって一利なし」だと思います。

それは、時々の政府がしっかりと客観性を保つべく
努力すべきなのですが、今のところどうも心配ですね。
「脱」とか「卒」とかいう低レベルの選択を
選挙の争点にしているような国ですから。


2012/12/3 19:14 Comments (0)

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