セミナーを終えて、公開講座②

昨日、私の事務所の前の新大橋通りは、
なぜか閑散として自動車の通行がほとんどなし。
新富町方面を見ると、人の列が動いていて太鼓の音がドンドン。
あたりには警備員や制服警官、それに消防車。
(なにかいな?)
近づいて見てみると・・・なんと、東京マラソン。
(またやっちまったよー)
昨日は、私のセミナー開催日だったのです。

昨年の「第6回セミナー」開催日は、
ワールドカップの「日本対デンマーク戦」だったような。
今年は・・・東京マラソン!
今度セミナーをやるときには、事前によく調べないとと、反省しきり。
ただ・・・「にもかかわらず」最終的には
多くの方々にご参加いただきました。
この場を借りて、御礼申し上げます。

セミナーの冒頭
「もしかして、東京マラソンをひとっ走りされてきた方なんて、いませんか?」
と、お聞きしたら・・・いました、約1名!
42.195キロですぜ。
それを4時間半で走りぬき
「ちょっとジョギングしてきました」みたいなご様子で
私のセミナーにご参加くださったのです。
いやあ・・・びっくりしました。
セミナー開始は午後3時30分。
最終ランナーは、まだゴールしていない時間ではないでしょうか?

昨日のセミナーは、講演に引き続きの質疑応答も活発。
講師3人で無料相談も実施。実りの多いものになったと思います。

この勢いで、今日も公開講座をやりましょう。

今日のテーマは
「集合住宅における日本と欧米の違い」

「集合住宅における・・・」というよりも、
それ以前の日本と欧米の「住宅のありようの違い」から
始めたほうがいいと思います。

私の生まれ育った京都市左京区吉田あたりは、
平安・鎌倉期頃は京の市街のちょい外れ。
といっても、15分も歩けば御所です。
そこに「吉田山」という名の小山があります。
山肌に吉田神社というわりあい大きな社があって、
毎年節分には大いに賑わいます。

鎌倉時代、この吉田神社の神官だったある人がこんなことを言いました。
「家の作りようは、夏を旨とすべし。冬は、いかなるところにも住まる。暑き比わろき住居は、堪へ難き事なり」
家というものは、夏にあわせて作りなさい。
冬はどんなところにも住めるけど、
暑い頃に出来のよくない家に住むのは耐え難い、というようなこと。

この人、俗に兼好法師と呼ばれ、本名は吉田兼好。
まあ、あの時代のインテリです。
でも、ちょっと乱暴な意見だと思います。
鎌倉時代末期はどうか知りませんが、京都の冬は無茶苦茶に寒いですよ。
「底冷え」と呼ばれる、意地の悪い寒さ。
それを「冬はどんなところにも住める」なんて、よく言えたと思います。

確かに、夏の暑いのも耐え難いけれど、冬の寒いのもたまりませんぜ。
ただし、納得できる部分もあります。
と言うのは、昔の家づくりは夏か冬のどちらかに
合わさざるを得なかったと思えるからです。

日本の家屋は、伝統的に「木造」です。
欧米人に「紙と木で作った家に住んでいる」といわれたこともありました。
これに対して、ヨーロッパの家は基本的に石もしくは煉瓦造り。
なぜこの違いが生まれたのか、という理由もはっきりしています。

まず、日本は高温多湿な気候なので、
気密性の高い住戸だと、夏はむしむしして「堪へ難き事」になります。
だから、蓄熱率が低い建材を使用し、開放部を多く取れる木造建築が主流。
使用する木材も、国内で豊富に産します。
それと、もうひとつの大きな理由は、
煉瓦や石の「積み上げ式」工法の場合、地震に弱いのです。

日本も「ハイカラ」が流行した明治大正期、
煉瓦造りの建物が数多く作られました。
でも、1923年の関東大震災でその多くが崩落したそうです。

一方、ヨーロッパ大陸というのはほとんど地震がありません。
ギリシアのアクロポリス遺跡の写真をご覧になったことがあるでしょう。
ああいうのって、震度3くらいの地震で崩れそうですね。
イタリアのピサの斜塔も同じく。震度3で倒壊ですよ、きっと。

地震の少ないヨーロッパでは石と煉瓦造りの家が主流なのです。
夏が日本のように蒸し暑くないことも理由のひとつ。

石と煉瓦で造った家は、容易に壊れません。
イタリアでは、ローマ時代の建物がいまだに使われている例があるそうです。
それに対して、木造住宅にはどうしても限界があります。
法隆寺なんてのは1400年近くももっていますが
あれは「例外中の例外」だと思います。

でも、今の不動産屋の基準のように
「木造の家は築25年で評価0」というのは、いくらなんでも行き過ぎ。
木造住宅だって、キチンとケアすれば100年くらいは持つと思います。
現に、ヨーロッパでは100年モノの木造住宅は珍しくないといいます。

さて、このように日本と欧米では住宅に対する基本的な文化が異なります。
そして、ここ50年くらいは「鉄筋コンクリート造」の
集合住宅が主流になってきました。
イギリスでは「フラット」、フランスでは「アビタシオン」、「アパルトマン」。
アメリカでは「アパートメント」や「コンドミアニアム」。
呼び方は違っても、おおよそは同じようなもの。

ところが、日本の「鉄筋コンクリート造」は、欧米のそれに比べて
大きなハンディを背負っているといわざるを得ません。
それは、ある設備が欠けると「堪へ難き事」になるのです。
そう・・・エアコンです。中でも冷房機能。

もちろん、欧米のコンクリート住宅でも
エアコンを付けているところがほとんどです。
でも、その用途はほぼ暖房ではないでしょうか。
冷房を使うことはあっても、日本ほどではありません。
それに、彼らは冷房がない時代でも鉄筋コンクリート造と
あまり変わらない石や煉瓦造りの建物に暮らしてきた実績があります。
つまりは、そもそも冷房は必要不可欠ではないのです。

ところが、日本のマンションは違います。
ほぼ、冷房がなければ夏は過ごせません。「堪へ難き事」です。
エアコンの付いていないマンションは、
吉田兼好風に表現すれば「わろき住居」なのです。

日本の集合住宅としては「長屋」という伝統があります。
もちろん、木造です。
薄い板の向こうは、もうお隣。
みんなひとつの井戸を使い、トイレも共同。
プライバシーも何もあったものではありません。
そこで、肩寄せ合って助け合い、
時に諍いながらガヤガヤと暮らしてきました。
それで火事や大地震があると、一瞬ですべてが灰燼に帰します。
そして、また木造の安普請で新築。
このように、日本の集合住宅は短いサイクルで
「スクラップ&ビルド」されることが基本でした。

そういった日本特有の集合住宅での暮らしが、
江戸時代から高度成長期直前まで続いたのではないでしょうか。
そこから、いきなり鉄筋コンクリートの「マンション」時代に突入しました。
区分所有法が制定されたのは1962年のことです。

一方、欧米の都市では、何百年も前から半永久的な
石や煉瓦造りの集合住宅があり、その材料が近年、
鉄筋コンクリートに変わっただけ。
ライフスタイルや「スクラップ&ビルド」サイクルには、
特に大きな変化はありません。

はっきりいって、日本は欧米と比較して半永久的な集合住宅を
「区分所有」して住みこなしていく文化が「未成熟」です。
日本人が本格的にマンションに暮らし始めたのは、
たかだかここ3-40年のことなのです。
頑丈な「鉄筋コンクリート造」というだけで
それまで貧相な木造の長屋しか知らない日本人には、とても異質な存在。

この異文化との遭遇は、人々に「マンション生活」への
漠然とした「憧れ」を抱かせることになりました。
多くの人は、木造住宅よりも鉄筋コンクリートのマンションの方が
「カッコイイ」と考えるようになっています。
そして、耐久消費財でも買うような気軽さで、
マンションを購入している人が大半ではないでしょうか。

もちろん、あまり先のことは考えていません。
このことについて業者はもちろん、消費者側も、行政サイドも同様。
「老朽化」という問題ひとつとっても、
欧米に比べてわれわれの経験値はゼロに等しい状態です。
錯綜する権利関係を調整する手段もありません。

また、それ以前に恒久的な集合住宅を「区分所有」する、
というのがどういうことなのか、大半の「区分所有者」は理解していません。
多くの管理組合は、輪番制の理事による無気力な運営がなされています。
こういった「未成熟状態」の最大の弊害は、
それにつけこむ業者の跳梁ではないでしょうか?

まず、デベロッパー。
先の項で触れたように、「作らなくてもいいマンション」を
大量に作り、マヤカシに等しい広告で販売しています。
次に、管理会社。
意識の低い管理組合からは、ぼれるだけぼっています。
そして、仲介業者。
多くの業者は「取引成立=手数料確保」を最優先に、
売主・買主の利益をなおざりにしています。

これは、疑うことなく安易に業者のいいままになる
エンドユーザーがかなり多いことが原因のひとつです。
日本の集合住宅の文化を成熟させるためには、
「購入者」と「居住者」のレベルや意識が向上することが必要。

そのために、私も何がしかの役に立てればと日々考えています。


2011/2/28 18:06 Comments (0)

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