やがて悲しき不動産広告

これだけマンションが売れないと、
その周辺の業種への波及も半端じゃありません。
私のオフィスへも、ここ数年リストラされた方や、
会社を畳んだ人がよく訪ね来られます。
たいていは「何か仕事はありませんか」
「雇ってくれるところありませんか」という用件。
はっきり言って、今の私ではほとんどお役に立てません。

そんな中で、10人に一人くらいは他業種へ転向される方もいます。
また、極たまに、そこで小さな「成功」を収められている方もいるのです。
そういう方は、実に晴れ晴れとした顔をなさっています。
そして、一応におっしゃることは
「あの、バカな不動産屋どもと付き合わなくてよくなったのがとてもウレシイ」ということ。
特に不動産広告に携わっていた方にこの傾向が強いですね。
「不動産屋はほとんどバカばっかり。特に、販売会社はヒドイ。
それにくっついている広告代理店の営業も、バカが多い。
バカが2乗になって来るから始末に終えん」
よ―――く、わかります(笑)。

私にも経験がありますが、
広告の仕事は「無から有を生み出す」作業です。
もう少し分かりやすくいえば、頭の中にあるモヤモヤしたイメージを、
眼に見えるカタチや言葉にしなければなりません。
人間の頭の中にあるものなど、それこそ千差万別。
それを「打ち合わせ」と称するコミュニケーションで
みんなの頭をひとつのイメージに統一していきます。

実のところ、自分のアタマの中にあるモヤモヤを、
相手が理解するような言葉に変えて伝えるためには、
相当の表現力が必要です。
私の感覚では、IQ130以上のキレと豊かなボキャブラリー、
そして相手のレベルに合わせた表現ができる柔らかな発想が必要。
ところが、このIQ130というのは、全体のおよそ2%という異分子。
偏差値の世界なら早稲田・慶応かそれ以上のクラス。
もちろん、偏差値とIQは完全に正比例しませんが。
ただ・・・そのクラスの人材は、不動産業ではほぼ財閥系企業に集中。
不動産広告の世界でも、ほんの一握りの少数派。例外は多少ありますが。
つまり・・・そのへんには、ほぼいないのです(笑)。

だから・・・不動産広告の世界では、ほとんど毎日が混乱の連続。
オモチャ箱をひっくり返したような騒動が繰り返されます(笑)。
「コレは俺のイメージと違う」
「いったことがちゃんと伝わっていない」
「方向性が違う」
「お前は商品を理解していない」
「なんで俺の言っていることが分からないんだ、バカヤロー」
とまあ、いってみればドタバタ喜劇の世界です。
仕方ありませんね。お互いのアタマの中が違いすぎるから
あっちこっちで「行き違い」が起こるのは。
それに、二人に一人か三人に一人は
確実に「なーんにも考えていない」か
何か意味のあることを考えることができないくらいのおバカ。
でも、本人はたいていそのことに自覚がありません。

こういう状態がほとんどですから
もう、混乱せずにスムーズに仕事が進むほうが珍しい、のです。
そして、たいていの当事者は「なぜ混乱が生じるのか」という
このコミュニケーションギャップの本質を分かっていません。
だから、このドタバタ喜劇は未来永劫に続くでしょう。
これを当事者達は真剣な顔でやっているところが、
この不動産広告世界の「悲劇」なのです。

私の知人でIQ140を豪語する方がいらっしゃいました。
IQ140というのは全体の1%以下。学歴なら「東大」クラスです。
彼の不運は、40代になってから不動産屋とその広告屋を相手にし始めたこと。
もう・・・・連日の如く「アノ○○不動産のバカどもめ!」、
「あの営業の○○は何も分かっておらん」と毎日罵りまくり。
彼の悲憤慷慨を、私はよく理解できていたつもりです。

ただ、私は20代の半ばからあのおバカな連中を相手にしているので
「世の中こんなもんだ」と、開き直るところがありました。
しかし、彼にとっては、おバカが支配している不動産業界と
それにくっついている広告屋というのが
何とも理解できなかった・・・受け入れられなかったのです。

でも、その彼は今、他業種で晴れ晴れと仕事をなさっています。
「足を洗えてよかったね」と、心から申し上げたい。
私は、いまだにドップリとそこに浸かっていますが・・・
ご丁寧に、彼らの生態を暴く本まで書いてしまいました。

「年収200万円からのマイホーム戦略」

この本に書いてあることがみなさんに広まれば、
不動産業界は確実に変わるのですが・・・

かのIQ140氏のような「アタマのいい人間」にとって、
この不動産業界とその周辺の社会は、
実に居心地が悪かったと思います。
私は、この業界に入る前に教育産業に身を置いていました。
そこは、偏差値の高い学校を出た人間が幅をきかす世界ですから、
表向きは一応「理屈」というものが重んじられます。
内実はそうでもないところが多いのですが(笑)。

ところが、不動産業界はハナから理屈は二の次です。
「売れればいい」「儲かればいい」という世界。
時には、法律だって無視してしまいます。
それでいて、大金を得ることができるのですから、本当にヤクザな業界。
理屈もヘッタクソレもあったもんじゃない(笑)。
その広告なんて、もっと滅茶苦茶。
この数年、大量投下されたマンション広告のキャッチコピーの一例を挙げると、
「感度リョーコー」「ハマブギ」「PAR区」・・・・ですぜ。
こんなのを、真剣に議論してつくっているかと思うと、
本当に「喜劇」を通り越して「悲劇」ですね。

業界からうまくエスケープできたIQ140氏は、駿河の士族の家柄。
私の家も5代前は、紀州藩から微禄を頂戴しておりました。
共に酒を飲めば、親から教えられたサムライ話に花開きます。
「禄少なしといえども武士は武士」「名こそ惜しめ」と、
教えられてきた身には、こういう広告を作って人前に出すのは
「恥ずかしい――」と逃げ出したくなる、という感覚で一致します。


2010/4/10 22:26 Comments (1)

1件のコメント

こんにちは。いつも参考にしています。
最近某不動産販売会社が2日に一度、全く同じ広告(売却しませんかという広告)をポストに入れて大変迷惑を受けています。しかも新築の家にも入れているようです。もう3ヶ月は続いています。
こんなやり方は普通なのでしょうか?株式上場している普通の会社です。

2010/04/19 00:56 | by 匿名君

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