京都人と江戸っ子が仲良くなるお話

このブログで10年ほど前に上げた名作
佃の渡しに嵐吹く、昭和幼侠伝」で登場したヒロシ君。
先日、二人でお寿司を食べながら楽しい宵を過ごしました。
いつもながらに愉快で快活なヒロシ君は70になっても同じ。
江戸っ子言葉で様々におもしろい話を聞かせてくれます。

もう何十年か前、ヒロシ君は東京でタクシーに乗りました。
快活多弁なヒロシ君は、すぐに運転手さんと会話を始めます。
「おう、運転手さんよ。あんた関西の出かい?」
「やっぱり分かりますか。実は京都でして・・」

「ほほう、京都のご出身とはめずらしいね」
「はい。お客さんもきれいな江戸弁を話されますね」
「わかるかい。これでもいちおう江戸っ子でね」
ヒロシ君は明石町の生まれて、小学生の時から四谷。
まあ、今どき珍しいチャキッとした江戸弁を話します。

運転手さんは、ちょっと嬉しくなったようでした。
「いや、私は京都の生まれですが、江戸っ子に
数十年来の恩人であり、友人がいますもので」
「ほう、それは珍しいかもしんねえなあ。
京都の人が江戸っ子と友達になるのかい」
「はい。実は・・・」

そのタクシーの運転手さんは、京都でどこかの
会社に雇われて運転の仕事をしていたそうです。
ある時、東京から仕事でやってきた大工さんを、
何日か車に乗せてお世話することになったとか。

まあ、言葉のアクセントは違えど、気持ちは
お互いに通じたのでしょう。さもありなんな展開。
大工さんは運転手さんに言いました。
「おめえ、東京にくることがあったら、
必ずオイラに連絡するんだぜ。
飯くらいは食わしてやっからな」

まあ、そんなことは今も昔も社交辞令。
特に京都人にとっては、時候の挨拶みたいなもの。
それから数年後、その運転手さんは失業しました。
「東京に行ってタクシーの運転手になろう」
そんなことをお考えになったそうです。
まだ、タクシー運転手の待遇がよかった頃ですね。

しかし、これといって頼る宛があるわけでもなし。
そこで思い出したのが、数年前に少しばかり
お世話をした東京の大工さん。連絡先もあります。
思い切って連絡をしてみました。

「右も左も分かりません。東京のタクシーについて
少しお話だけでも伺えませんか?」
連絡を受けた大工さんは、もちろん快諾。
「そうかい。それはテーヘンだな。俺っちでも役に立つ
こともあるだろうさ。まずはウチに来な!」

そこがどこだか、まではヒロシ君も聞かなかったみたい。
でもまあ、このお話の流れからいくと台東区か
荒川区で、隅田川の西側あたりでしょう。
あのあたり、昔ながらの大工さんが大勢住んでいて、
なおかつタクシー会社も多そうですからね。

その運転手さん、東京へ着きますと真っ先に
その大工さんの家を訪ねます。
「おう、よく来たなあ。まあ、あがんなよ」
大工さんニコニコと家の中に招き入れようとしますが、
そこは運転手さんも京都人でございます。

「いえいえ、めっそうもございません。こちらで
結構ですから、少しお話だけでもお聞かせ願えれば・・」
なんてやりとりを玄関先で致したそうです。
大工さんの眉間が、シワっとしたのかどうか。

「そうかい。うんじゃまあ、なあ・・・」
なんて言いながら大工さん、少し話をします。
「東京のタクシーってのはねえ・・」
しかし、どうも雰囲気が悪うございます。
京都人の運転手さん、何かを感じます。
(怒ったはるわ。厚かましいことしてもうた)

ひと通りの話を聞いた運転手さん、恐縮して言いました。
「貴重なお話をおおきにありがとうございました。
助かりました。そろそろ私はお暇をいたしたいのですが・・」
というと、大工さんの眉がぎゅっと収縮。

「なんだと、テメー!」
いきなり運転手さんの襟首を掴んでグイと引上げ
そのまま家の中へと引きずり込んでいきます。
当たり前ですが、大工は腕っぷしも強い。
「すんまへん、すんまへん、せやけど、なんで・・・」
靴も脱げないまま運転手さんは家の中の居間へ。

「オレッ」と座らされた先には居間の座卓。
そこには鯛のお頭付きから巻きずし煮物に
和え物、添え物お吸い物、天ぷらにエビフライ・・
下町ながらも心づくしのご馳走が並んでいたとか。

「おい、これはうちのババアがオメエが来るってんで
朝早くから用意したメシだ。オメエはこれが食えねえって
言うのか」と怒鳴られたそうでございます。
そのご馳走の並んだテーブルの向こうで、
大工の奥さんらしき人が手拭いを目に当てて
泣いていたそうで。(これを食べてもらえない・・)

まあ、そのあとは大団円。その運転手さんによると
奥さんの手作りの料理は「本当に美味しかった」とか。
大変な美人だったそうですよ。こういう話には当たり前。
美しい奥さんのお酌でお酒をたくさん召し上がったとか。

「京都の方がいらっしゃると聞いたので、こちらの
ものではお口に合わないと、伏見のお酒をご用意しました」
なんてことを言われたとか。痺れますね。
ただ、京都人の私は伏見よりも灘が好きですが(笑)。

「おめえ、どーせ泊まるところもねーんだろ。
おれっちに泊まっていくよな。おめーを寝かせる
布団くらいはあるからよ」と、大工宅に逗留。
めでたく2種免許も取ってタクシー運転手になったとか。

「江戸の方て、ほんまは優しいんどすなあ」
その運転手さんと大工さんはそれからもう何十年も友達だとか。
まあ、いい話ですね。ほろりとします。
京都人と江戸っ子も仲良くなれるのです。
現に私とヒロシ君は仲良しですよ。

本日の動画 ↓

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当日は会場に消毒液や空気清浄機を用意し、
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わたくしが無料で受けさせていただきます。
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開催日時:7月30日(土)13時~17時
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(東京都中央区日本橋横山町4−11 「馬喰横山」駅より徒歩1分)

当日土曜日の13時から17時まで、
私が相談会場におりますので、どうぞご自由にお越しください。
とくにご予約などは不要です。
ただし、順番におうかがいしますので、
ちょっと待っていただくかもしれません。
混んだ場合は1組様30分程度とさせていただく場合もございます。
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2022/6/25 22:11 Comments (1)

1件のコメント

泣いた(マジ)。

榊さん、どうかお願いだから小説家になってください。
私がたまたま榊さんと同じ生まれ年だからなのかも知れませんが、この話グッとき来過ぎます。リズムもテンポも起承転結も、照れや不器用さの裏にある誠実さや実直さも、すべてサイコーじゃないですか(泣)!!
「佃の渡しに嵐吹く、~」も初めて拝読しましたが、その文才にビックリしました。ユーモアのセンスや抑制の効き方に。
失礼ながら通常のブログの何百万倍も気品に溢れています。
あなたの書いた小説をメチャクチャ読んでみたい!
あなたの書いた小説でメチャクチャ泣きたい!!

2022/07/22 21:46 | by ぽんこつ

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