昭和幼侠伝 佃の渡しに嵐吹く

ヒロシ少年は唇をぎゅっと噛みしめ、悠然と流れる隅田川を、
そしてその向こうに見える佃島を睨んだ。
「ここで引き下がれば男がすたる」
先週、父ちゃんに連れられて出かけた有楽町の映画館。
清水の次郎長は子分である森の石松の仇をしっかり討っていた。

ところが・・・・
今、目の前で泣いているのは、
普段ヒロシが子分みたいにかわいがっているタケシ。
「川向うの公園で遊んでいたら、おっきい奴にやられたんだ」
聞けば、親と一緒に渡った佃島。
親が用事を済ませている間に公園で遊んでいたら、
「お前、どこのガキだよ」と、背丈の大きい悪ガキたちに取り囲まれ
さんざんに小突き回されたという。
「オイラもやられたよ。そいつ、佃幼稚園で有名なガキ大将だってさ」
そうすると「俺も」「僕も」も、と2,3人が言い出した。
「ナニ、お前らもやられたのか!」
(ここで引き下がっては、俺のオトコがすたるぜ)

それは、東京の街がようやく戦災から立ち直った昭和32年の秋の出来事。
「よし、野郎ども、10円もって渡しに集まれ。エモノを忘れるんじゃねえぜ」
そういうと、ヒロシも家にすっ飛んで帰った。
「かあちゃん、10円おくれ」
「おう、ヒロシ。飴玉でも買うのかい?」
「おうさ、ちょっとチャンバラやるからユカタとサラシも出してくれよ」
「おや、今日はやけに気合が入っているじゃないか」
スパっと服を脱ぐと、サラシを腰に巻きつけた。
そして、祭りの子ども神輿を担ぐ時に着た浴衣を羽織り、
帯代わりの縄を腰に巻きつけ、そこへ竹竿の「刀」を差す。
「ヒロシ、そういう時は尻をはしょるんだよ」
かあちゃんが浴衣の後ろを上げて帯に留めてくれた。

「止めてくれるなおっかさん。男にはいかにゃあいけねえ時があるんだ」
ヒロシがそういうと、かあちゃんは笑った
「ったく、変な能書き垂れてないで、とっとといっといで。日が暮れたら帰ってくるんだよ」
「それじゃあ、行ってくるぜ、おっかさん」
ヒロシは家を飛び出して、渡しに向かって駆け出した。

当時、今の東京都中央区の築地・八丁堀側と
佃・月島側を結ぶ「佃大橋」はまだ建設されていない。
両岸の行き来は「佃の渡し」と呼ばれた、
ポンポン蒸気の小さな船を利用するしかなかった。
その船着き場に集まった明石町幼稚園の男子園児は、ヒロシを入れて7人ほど。
みな、示し合せた通り揃いの浴衣に鉢巻をキリリと巻き、
腰には竹竿の「長ドス」を指した立派な喧嘩支度。
「おう、野郎ども。気合を入れて行くからな!」
「オウ!」
まだまだ男たちの気が荒かった時代。
幼稚園児といえども、中々に侮れない。

「おいちゃん、帰りの分もいっしょだよ」
ヒロシを筆頭とした園児たちは、握りしめてきた10円玉を船頭さんに渡す。
当時、渡し賃は大人が10円、子どもは5円。
したがって、ヒロシたちの場合は往復で10円。
船頭は「常陸の源さん」と呼ばれていた寡黙な五十男。
常州から出てきて若い頃には浦安あたりでヤンチャをしていたという話だが、
今は毎日黙々とポンポン蒸気を操船している。

その源さんがヒロシたちをジロリと睨みつけた。
その眼光の鋭さに、ヒロシたちはちょっとたじろぐ。
「おい、小僧ども」
源さんは「お前たち」とか「坊主たち」というのではなく
「小僧ども」とヒロシたちに呼びかけた。
「な、なんだい、おいちゃん」
「その恰好は・・・殴り込みか?」
「その通りさ。佃島幼稚園の奴らに仲間が泣かされた。仇を討ちに行くんだ」
そこで源さんはニヤっと笑った。
「そうかい、そりゃあしっかりやんなくっちゃな。さあ、のんな」
ヒロシたちは喜んで渡し船に飛び乗った。

「利根の流れの、流れづき。昔わろうて眺めた月を ♪ ・・・」
ポンポンポン、と音を立てて水面を進む渡し船の舵に肘をつきながら、
源さんは遠くを見つめながらどこかで聞いたような歌を口ずさんでいる。
そして、煙管を吹かすと、逆さにして欄干でトントンと灰を落とした。
乗り合わせた大人たちがヒロシたちの格好をみて、声をかけてくる。
「ほう、殴り込みかい」
「仲間の敵討ちねえ、ちいせえのに見上げたもんじゃねえか。しっかりやるんだぜ」
「そうだそうだ、負けんじゃないよ」
みんな面白がっているのか楽しんでいるのか、
ヒロシたちを盛大に励ましてくれた。

船がいよいよ佃島の船着き場に入った。
「小僧ども。しっかりやってきな」
源さんはまたニヤリと笑いながら、ヒロシたちを送り出した。
「野郎ども。ここはもう敵の地だ。ぬかるんじゃねえぞ」
「おう!」
ヒロシたちはあたりを警戒しながら、タケシが泣かされた公園へと向かう。
「いた、あいつだ」
タケシが指差した先に、幼稚園児とは思えない体の大きな悪がきがいた。
「ようし、やっちまえ」
ヒロシたちは腰から竹竿の長ドスを引き抜き、一斉に襲い掛かる。
「な・・・殴り込みだー。は、はやく・・を呼んで来い」
不意を襲われた佃島勢は、さすがに分が悪い。
ヒロシたちは竹竿でさんざんにボス格の悪がきを打ち据える。
その内、敵に2,3人の加勢がやってきた。
「川向うの奴らに負けるんじゃねえ」
相手も必死である。一瞬、ヒロシたちが守勢に回る場面も見られた。
「かまやしねえから、やっちまえ!」
しかし、喧嘩支度で乗り込んできたヒロシたちの気合が勝った。
「やめてくれー」
タケシを泣かせたという大きな悪がきは泣きじゃくって逃げ出した。
「逃げやがったぜ。残りも片付けろ!」
ボス格が逃げ出したので、残党たちもわれさきにと走り出した。

「やったなー」
見渡すと、多少コブを作っている仲間もいたが、
大きなケガをしたものはいなさそうである。
「よし、長居は無用だ。引き揚げるぜ」
ヒロシたちは、泥まみれになりながらも意気揚々と船着き場に向かった。
「おう、その様子は勝ったみていだな」
源さんは口元に少し笑みを浮かべながらヒロシたちを迎えた。
「あたぼうよ。あんな奴らに負けるワケねえさ」
ヒロシは精いっぱい肩をそびやかせてそういった。
「そりゃよかったな。さあ、はやくのんな。しっかり送ってやるぜ」
ヒロシたちは源さんの船で無事に明石町に帰り着いた。

もちろん、親には内緒・・・のはずだった。
しかし、数日後なぜかバレてしまった。
そして、ヒロシたちはコッテリと油を搾られた。
「子どもだけで船に乗って勝手に島へ行くんじゃないよ。誰か大人を一緒に連れて行かなきゃダメじゃないか、このバカタレが!」
殴り込みに行ったことは、何も言われなかった。
下町の親たちである。
本当は「よくやった」ぐらい言いたかったのかもしれない。

そして、明石町幼稚園と佃島幼稚園の先生たちも知るところとなる。
「ケンカをしてはいけません」
日本国憲法にも戦争はいけないと書いてある、
といったかどうかは知らないが、戦後日本は平和ニッポン。
子ども同士の喧嘩とはいえ、
いつまでもほっておくわけにはいかなかったらしい。

両幼稚園の仲介に入ったのは、何と「常陸の源さん」。
ある日、佃島の悪がき一行が先生に伴われて明石町に渡ってきた。
ヒロシたち殴り込みの一党も先生に付き添われてそれを迎える。
「さあ、仲直りですよ。みんなで握手しましょうね」
先生に促されて、ヒロシたちが渋々手を出そうとすると・・・
「おっと、先生方。出入りの手打ちはそうじゃねえよ」
と、握手を停めたのは他ならぬ源さん。
「いいかえ、小僧といえども男は男。ここは決まり通りやりましょうや」
そういって源さんはヒロシたちを見渡した。
「それじゃあ、小僧ども。三段締めで決めるぞ」
みな(わかったよ、おいちゃん)という顔をしている。
「では、お手を拝借」
源さんが手を広げて「ヨーオッ」と声をかけると、
そこは下町の小僧たち。要領を心得ている。
シャシャシャン、シャシャシャン、シャシャシャンシャンッ・・・・
と、女の先生たちがあっけにとられる中、
キレイに三段締めを決めて見せた。
「はい、ありがとうごぜいます。これにて明石町・佃島両幼稚園の小僧どもの出入りは手打ちと相成りやした」
そこで、みんなニッコリ笑ってパチパチと拍手したそうな。

以上は今年60歳になった不動産業のヒロシ君から
ついこの間に聞かせてもらった話。
多少脚色が入っているかもしれないけれど、ほぼ実話。
もちろん、今は渡し船の船着き場はなくなっています。
ヒロシたちが殴り込みをかけた佃島はタワーマンションがニョキニョキ。
その隣の月島、ほぼ地続きといっていい勝どき、そして晴海も
マンションの建設ラッシュといっていい状態。

今回、「晴海・勝どき・月島」のマンションレポートを更新していて
ついヒロシたちのエピソードを思い出したというワケです。

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2012/7/20 16:01 Comments (0)

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